バキュバン

(ばきゅばん)特定の製品名。一旦開栓したワインを再度保管するときに、特殊な栓とポンプで空気を抜き、減圧状態にして酸素に触れにくくすることで酸化が促進するのを防ぐもの。その原理をちょっと聞いた限りでは、深く考えない人は是非日本酒に使用してみたい、酒の保管に最適だと思うであろう。実際、バキュバンの崇拝者は多く、盲目的にその万能性を信じきっている人がたくさんいる。しかし、敢えて言わせてもらうと、日本酒には使用しないほうが良い。特に繰り返しての使用は原理的に問題があるのである。高校程度の物理の知識がある人なら分かってもらえると思うが、液体が液体という相を保っていられるのは、分子運動による分圧と、1気圧という圧力との平衡が保てているからである。もし分子運動による分圧が気圧より高くなれば、その液体はどんどん揮発してゆく。何を言っているかというと、元々揮発性の高い吟醸香成分は、普通の気圧でも徐々に揮発しているのに、減圧状態をつくるとその揮発がさらに加速されるのである。つまり減圧を何回か繰り返すうちに、やがて液体としての香り成分はなくなってしまうことを意味する。要するにバキュバンを一升瓶の酒に何回も使用して、ちびちびと飲んでいるうちに、やがて酒の香と味わいのバランスが崩れてまずくなるのです。なお、ワインではバキュバンの効果が顕著な場合も多いらしいので、バキュバンそのものを批判するものではありません。

日本酒を何十と開け散らかしてバイザグラスで提供している飲食店さんを時々見かける。日本酒を造ってを売る側として、ちょっと悲しい気分になる。何故なら、いくら冷蔵しているとはいえ、開栓して何ヶ月も持つ酒はほとんどなく、大抵は10日前後、早いものは数日で味が落ち始める。お店のキャパが相当大きくても何十種類をバイザグラスで提供すると必ず長い間開栓状態となる酒が出てくる。当然味が落ちてくる。もし、駿がそんな状態で提供されているとすれば、ちょっと悲しいです。さて、もっと悲しいのは、うちはバキュバン使っているから平気です、と涼しい顔して仰る飲食店さんがおられます。バキュバンは上に上げた理由で全然平気じゃありません。そして、味見をすればバキュバンを使うと味がどうもおかしいとすぐ分かるはずなのに、そう思わないところがすごく悲しいです。

柱焼酎

(はしらじょうちゅう)現代のアル添の技法と同じ。江戸時代の1685年、当時の酒造の教科書であった『童蒙酒造記』には、酒に焼酎(アルコール)を入れると「味がしゃんとし、足強く候」とあり、既に当時からその技法が確立されており、しかもその効果もはっきりと認識されていた。味がしゃんとというのは、切れが良くなるという意味で、足強くというのは保存が効くという意味。当時は衛生面の問題、特に木の酒樽を使用していたため雑菌が沸き易く度々腐造、火落ち菌の発生、酢になるなどの問題が発生していたことから、樽の消毒を兼ねた重要な手法であった。

破精 (はぜ)麹米の内部に麹菌の菌糸が食い込むことをいう。表面の所々に破精ている部分と破精ていない部分がまだらに存在する状態の突破精(つきはぜ)、全体的に破精ている総破精が代表的な良い状態とされる。後者の方が味の多い酒になり易く前者は軽い酒質になり易い。の項参照。
初呑切り (はつのみきり)日本酒は日々変化しており、今年搾ったお酒が良い熟成に向かっているか、劣化に向かっているかは蔵元のみならず指導されている各県の先生方、そして国税局にとっても大変な関心事であり、それをチェックすること自体が重要なイベントである。それを”呑切り”という。”呑切り”という言葉は、タンク貯蔵が当たり前だった時代の名残で、タンクの横に付いている栓を”呑口”と呼び、呑口の封を切る行為を呑切りと呼んだ。特に、気温が上ってきて変化が進み熟成か劣化かの分岐点になる6月〜8月頃、第一回の呑切りを行うのだが、これを初呑切りという。呑切りの中でも初呑切りは特に重要なイベントであり、指導の先生方、国税局の酒類指導官、さらに重要な御得意先を招いたりもし、蔵元にとっては大変な行事なのである。この時に高い評価を得た酒を”初呑切りの酒”とうたって出荷することもある。今でこそ冷蔵設備も整い、酒造技術も向上してあまり悲惨な状態は無くなってきたが、昔の蔵元は初呑切が終わるまでは全く気が抜けなかったのである。
はね木搾り

(はねきしぼり)搾りを行う方法の一つ。モロミを入れて積み上げた袋の上から一点で圧力を掛けて搾る方法。テコの原理を応用し、長い棒の先端に重りを吊るし、その付け根近くに圧力を掛ける押し棒があり、その押し棒の下に袋を積む。”はね木”は、その長い木の棒をさす。今ではあまり使用されなくなった伝統的な方法。

搾りの強弱で言えば、自然に垂れるものだけを集める袋吊りが一番弱く、藪田式搾り機とよばれる機械式の搾り機が一番強く、はね木搾りはその中間の強さ。容易に想像可能だが、強く搾れば、沢山酒が取れるが酒質も下がり、弱く搾れば量は少ないが、酒質は上がる。はね木搾りは、そこそこの酒質のものが多く取れるという特徴がある。


火入れ

(ひいれ)清酒を一定時間高温(60度C、数分前後)にして殺菌と、酵素の不活性化を行う。通常の細菌は清酒のアルコール中には生存できないが、乳酸菌の一種でアルコールを好むものがあり、それが清酒をしばしば駄目にする。幸い熱に弱いので、火入れによって死滅させることが出来る。また、酵素を不活性化しておかないと瓶中でも反応が止まらず、大抵は悪い結果を招くのでこれを防止する。火入れは、昔は上槽(絞り)して貯蔵する前に1回と、瓶詰めする前に1回の合計2回行っていたが、最近は、特定名称酒の瓶貯蔵が増えたため、瓶貯蔵の際に1回だけ行われることも多い。この際の火入れ方法として、蛇管を用いた一括火入れと、瓶詰めした後に瓶毎火入れを行う瓶火入れ(瓶燗)の2通りがある。前者は空気に触れる面積が大きくなり香味が失われ易く、また器具臭も付き易いため、良心的な蔵は当然後者を行うはず。

余談ではあるが、フランスワインもこの火入れを行っている。19世紀、フランスで腐敗の大被害が発生した時、細菌学者パスツールが低温によりワインを煮沸することでアルコール耐性菌を死滅させることが出来ることを発明した。この方法を発明者の名前を取ってPasteurizationと呼ぶ。しかし、日本では、その300年前から既に火入れが発明されており、文献にもはっきりと記録が残っているのである。本当ならHiirationとでも呼んで欲しいところである。

(追加)未確認だが、文献で確認できる範囲でも中国の方が日本よりさらに古い火入れの事実があるらしい。いずれにしてもパスツールがオリジナルではないことは確かである。

火落ち

(ひおち)火入れの効力がなくなった状態。つまり、火入れ(殺菌)したにもかかわらず、火落ち菌が発生してまった状態。したがって生酒は「火落ちした」とは言わないので要注意。

 −菌

(ひおちきん)火落ちの原因となる菌で、真性火落ち菌と火落ち性乳酸菌の2種類ある。いずれも好アルコール性細菌であり、これが繁殖するとツワリ香(火落ち香)と呼ばれる悪臭が発生し清酒は白濁する。この菌は、10度C以下ではほぼ活動を停止するため、生酒は冷蔵貯蔵することによりこの菌の影響は受けにくくなる。ただし、単に活動を停止しただけなので注意が必要。

 −臭

(ひおちしゅう)つわり香とほぼ同じであるが、酢酸様の香りあるいは、ヨーグルトのような香を含む場合がある。

火冷め香

(ひざめか)火入れ直後のすえたような香り。燗冷ましの香りとほぼ同じ。冷暗所で保存すればほぼ3ヶ月程で消えるため、通常は火入れして暫くは出荷せず静かに出荷時期を待つ。

老ね

(ひね)清酒中のアミノ酸とぶどう糖が反応(アミノカルボニル反応、メイラード反応ともいう)し、香味が劣化する(非酵素的:酵素が介在しない)のこと。食品には良く見られる反応で、醤油、みりん、味噌などもこの反応が起こり、褐変と独特の風味が加わる。清酒の場合は、好みによって意見が分かれるが、意図したものでない場合は普通は劣化臭として排除される。清酒ではないがこれを意図したものとして一番良く知られているのは中国の紹興酒など。なお、生酒に起こる生老ねは、同じ老ねとついても科学的には別の反応である。(生ひねの項参照)。

冷卸

(ひやおろし)割と良く耳にするのだが、実はプロでもちゃんと理解していない人がいるので驚いた。冷卸とは、ひやで卸す(出荷する)酒、つまり火入れせずに出荷した生酒を指す。プロでも勘違いして、生酒は全て冷卸と呼べると思っている人がいるがそうではない。その昔、清酒は出荷までに2回火入れするのが普通であった。上槽後、タンクに貯蔵する際に1回と、製品として出荷するために瓶詰めする際に1回である。冷卸とは、後者の瓶詰め時の火入れを省略した酒をいう。これは、秋になると気温が下がって、お酒の劣化事故の心配がなくなることから、瓶詰め時の火入れを省略し、これを冷卸と呼んだ。何故そうするかというと、やはり2回も火入れするということは清酒の味わいとしてはマイナス要因が大きく、出来るだけ余計な手を加えたくなかったからである。今は、少なくとも品質に敏感な蔵元は、低温での瓶貯蔵を行うことが当たり前になってきた。この場合の火入れのベストな方法は貯蔵時の瓶燗1回火入れなので、このような酒は自然と「ひやおろし」を名乗れるのである。ただし、季語ともいうべき言葉なので、秋の出荷のお酒にだけ名乗って欲しいものである。

BY

(びーわい)酒造年度、醸造年度のこと。Brewery Yearの略。6月30日までが前年度で、7月1日から当年度が始まる。例えば14BYは、平成14年7月1日から翌年の6月30日まで。

清酒は米が原料であるため、早生も含めて最も区切れが良い(生産がなさそうな)時期を考慮して7月1日で年度が切り替わることにした、らしい。
四季醸造の蔵は、年度に跨った酒はどう扱われるのだろうかという疑問があるはず。これは、上槽(絞る)した時をもってBY決定の年になる。

瓶燗

(びんかん)清酒の入った一升瓶ごと火入れを行う方法。お湯を張ったプールのような容器に直接蓋を緩めた一升瓶を沈めて、60度C程度まで温度を上げ、その後一気に冷水に漬けて急冷する方法。空気になるべく触れないように蓋は取らず、急冷する前に蓋を閉めることにより、酒の体積が縮んだ瓶の上部は減圧状態となる。手間は掛かるが空気には一番触れにくい火入れ方法である。

ビンテージ

(びんてーじ)ワインが醸造された年をいう。vintageという綴りからも想像できるように、もともとの語源は葡萄の作柄(出来不出来)を示す言葉であった。ワインの世界では、原料である葡萄の出来具合が酒質を左右するものすごく大きなファクターであり、例えばワインの酒質の90%は葡萄の出来具合によって決まると言っても過言ではない。実際、醸造家の関心事の大半は葡萄の出来であり、今年の収穫時期をどうするか、土壌をどうするか、今年の天候は、などに始終頭を悩ませ、中には大規模場気象予報システムを導入して話題になったり、はたまた有機農法を取り入れたりと、醸造家というよりはむしろ農業家としての活動が中心のようにさえ思える。もちろんボルドー大学などの専門機関では酵母とか醸造方法とかいろいろ研究はされているが、一般の醸造家が皆それらを良く理解して活用している状況ではない。これは批判しているのではなく、ワインという飲み物の性質なのである。したがって、偉大な葡萄が出来た年は、その地域全体で良い葡萄の収穫が行われ、そして高い確率でその地域のワイン全体の質が保証される。ですから「1998年のポムロール(ボルドーの地区名)は美味しい」という言い方が通用する訳です。

一方、日本酒の世界は、全く逆である。まず、米の作柄が酒質に与える影響はものすごく小さい。もちろん、満足に米が出来ていない状況はまずいのだが、一応形なりにも米が出来たのであれば、あとは造り手の技術の問題がほとんど全てと言っても過言ではない。米が融け易かろうが、硬かろうが、心白が小さかろうが、千粒重が多少少なかろうが、そんなことは全部杜氏さんの技術でカバー出来てしまう。いや、むしろ「不作年に銘酒あり」という言葉があるとおり、逆境を逆手に取って利点に変えてしまう程の勢いさえ感じられる。開放タンクで並行複発酵という世界で最も複雑な醸造方法を取る日本酒の世界は、間違いなく世界一の水準をもつ醸造技術集団である。話は脱線したが、結局原料の出来不出来というより、技術力のファクターが大きな位置を占める日本酒の世界はワインと同じ意味ではビンテージというものが存在しない。ただ、日本酒が地域ではなく、蔵元と酒のクラスまたは製品を限定して、特別な酒にビンテージを付けて拘るというやりかたであれば、ワインとは違った意味での楽しい世界が拓けると思う。つまり、葡萄というよりは造り手を中心に据えたビンテージであれば現実の世界と矛盾がなく、かつマニアの遊び心をくすぐるので、私が消費者であれば嬉しいとおもうはずである。但し、ビンテージを付けて拘るに相応しい酒質の水準が確保されてないとお話にならないのだが。

ところで、ワインの世界で言う原産地呼称制度(フランスではA.O.C)をそのまま米に当てはめて日本酒の世界でも規制を行おうとする動きがあるのを耳にしたことがある。はっきり言って日本酒と米の関係を無視した暴挙に他ならない。何故なら、米と土地と酒質を縛り付けるものは何もないからである。葡萄であれば、地域による葡萄の質の差が大きく、それがそのままストレートにワインの質に影響を与えるからこそA.O.Cは意味があるのである。日本酒は、同じ東条から仕入れた特Aの山田錦であっても造りが下手だったらただの駄酒にしかならない。
であるから原産地で縛ることはナンセンスである。また、そんなことをし始めると、山田錦が使えない蔵元が沢山出てきてしまう可能性もあるし、また、地元に良い造り手がいなかったばかりに埋もれてしまう地元産の米だって出てきてしまうであろう。とにかく私はプロの間でそういう動きがあることに悲しい思いをする。清酒全体としてどうやれば栄えてゆくかという視野が全く欠如している。多分、裏で利権とか囲い込みとかの利己的な考えをもつ人達が暗躍しているのだと想像している。


腐造

(ふぞう)清酒が発酵中に酢酸菌が大繁殖して酢になる、腐造性乳酸菌が大繁殖して、悪臭を放ち最早酒としては使い物にならなくなることを合わせて腐造と呼ぶことが多い。酒造の歴史は、腐造との闘いの歴史であった。明治以前は、米がそのまま貨幣価値を持っていたので、大量の米を原料にして、それを無駄にしてしまうことはそのまま蔵の廃業を意味するくらい重大な問題であった。腐造を出して倒れた蔵、自殺した杜氏は数知れず、それだけ必死の思いであったと想像される。

現代の酒造りでも時々腐造事故が起こってはいるが昔から比べれば、殆ど0に近い。その理由は2つある。まず、1つめは、酒母の段階で雑菌が全くなく、酵母で満たされた、健全な、力強い培地(スタータ)を製造する手法が確立されたことである。これにより、酢酸菌、腐造性乳酸菌が繁殖する余地が0に近くなった。2つめに、桶や櫂の材料として従来使用されていた木材からホーロー、ステインレスなどの衛生的な材料が使用されるようになったことにある。昔から蔵癖(くらぐせ)といって、原因が分からないが腐造事故の頻発する蔵が存在していた。今となっては、その真の原因を調査することは不可能だが、その蔵が使用していた木製の器具の何処かに菌の残留する部位があって、それが引き起こしていた事故であっただろうことが容易に想像される。

ブレンド

(ブレンド) 混和。複数の酒を混ぜて酒質を調整すること。普通酒、経済酒に多い。複数の未納税移入先をもつ大手の蔵元では、酒質の均一化を図るため、通常移入した酒はそのまま出荷せず、大抵はブレンドする。また、自前で全て賄っている蔵元でも、香味や日本酒度などの調整の目的でフレンドを行う場合も多い。

昔、このブレンドの件である杜氏さんから面白い話を聞いた。酒をブレンドすると、ブレンド直後はともかく、時間が経つとブレンドした中で一番酒質の悪い酒になびくそうである。したがって、増量目的で酒質を選ばずにブレンドするのは長い目で見るとナンセンスで、あくまでも均一化と調整を目的としたブレンドでなければならないそうである。大変便利なブレンドという手法も、人間の子供の交わりと同じで悪い奴になびき易いということなのでしょうかね。因みに私はどちらかというとその悪い奴でしたが。



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