粕歩合 (かすぶあい)使用した米の総量に対する絞った後に残った酒粕の重量比。あくまでも目安だが、大吟醸酒で50%以上、吟醸酒で40%以上、普通酒で20%前後、経済酒で10%前後となっている。

実は精米歩合と同じ位粕歩合も”ぜいたく度”を示すバロメータとして重要な指標であることを知らない人は多い。これにはいささかマジック(トリック)が存在するからである。実は法律の規定においては、特定名称酒の原料の量に関しては精米歩合の規定しか存在せず、粕歩合の規定はない。その結果、大雑把に計算すれば、精米歩合が同じ40%の大吟醸酒であっても、粕歩合を60%から40%にすれば5割余計に酒が取れる計算となる。その分原価は安くなり、利潤が多くなるというのである。通常は粕歩合は公表しなくても良いため、大吟醸と言えども種々のランクの酒が存在することになる。

ただし、あくまでも出来上がった酒がうまくて、しかも価格が安いのがベストなので、粕歩合を下げてその代わり大吟醸クラスの酒を中吟並みの値段で提供するならばそれはとても良心的と言える。何よりも旨ければ粕歩合がものすごく高くて値段もものすごく高くても買う人はいるのである。つまり、ラベルに見える数値、精米歩合だけに惑わされてしまってはいけないということ。
カプカプ (カプカプ)最近流行っているローカルな隠語。良く仲間内で飲みに行くことがあるのだが、飲食店様の目前でやたらとお酒の批判めいたことを口にするのは良くない。ただでさえこの業界は同業者の足の引っ張り合いが多いので、そういう品のない商売の手法を駆使する人達には私自身辟易しているからである。香り高いので是非飲んでみてくださいと言って勧められた酒のバランスがカプロン酸エチル中心であった場合に、仲間に伝えるコメントとして一言小声で「カプカプです」。そしてもちろん勧めていただいたお店の方には「香りが高くて若い人を中心にに人気が出そうなお酒ですね」とコメントすることにしている。

 木香 (きが)樽に酒を詰めておくと杉の精油がしみ出して良い香りが付く。これを木香という。詰めておく時間は1週間程度が限度でそれ以上置くと木香が強くなりすぎて飲めなくなる。良く披露宴、祝賀行事などで目にする菰(こも)を巻いた化粧樽は、飲む時間を見計らって出荷している。最近は菰樽の需要も減り、作れる職人が少なくなった。ところで最近は菰そのものにも人気が出ている。首都圏のちょっとお洒落な飲み屋では綺麗に額に入れて飾っていたりします。人気のある蔵元のものだとなかなか手に入らないとか。
  −様臭 (きがようしゅう)”きがしゅう”と略して言われることも多いが正確にはこちらが正しい。つまり、木香は半ば意図的に付けた香であるが、木香様臭は意図しない劣化臭の一つである。木香に良く似ているが、原因物質はアセトアルデヒド。これはアルコール発酵における中間物質であり、発酵が途中で強制的に打ち切られた状態の時(例えば早すぎるアル添)に出易い。あまり強くなければ、開栓してしばらくすると飛ぶことが多い。
きき酒 (ききざけ、ききしゅ ともいう)複数の酒を同一条件で味わい、点を与えて優劣を判断する方法。点数は、減点法で3点ないし5点(1が最も良い)満点が一般的。先入観を与えないためには、まったく銘柄等を隠した完全ブラインドが最も良い。酒の温度は香りも判断基準になるため室温程度(20度前後)が良く、色を見るため、通常は蛇の目のきき猪口を使用する。酒をきくときはまず香りを確かめ、次に口に少し含んで空気を入れながら舌全体で転がすように味わう。この後飲み込んでも良いが、数百点以上のものを飲み込むと間違いなく最後は実行不可能となるので普通は吐器(はき)と呼ばれるものに吐き出す(それでも結構胃に流れ込んで酔う人はいる)。数点程度のきき酒であれば飲み込んでも良い。実は喉越し、戻り香、余韻をしっかり味わうためには飲み込んだほうが良いのであるが。

最近は良く一般人も参加可能なきき酒会なるものが開催されている。一般参加が可能という条件であれば、主催者側もある程度覚悟はしているはずだが、それでも時々顰蹙を買っている人を見る。香水は使用しない、口紅は完全に落とす、最低1時間前からタバコは控える、人と喋りながらいつまでも猪口の前に立たない、酔っ払わない、せめてこれくらいは守って欲しい。

それと最後にもう一つ、数十点以上のきき酒を行うと、慣れない人にとっては相当苦痛を伴うということを覚えていて欲しい。ましてや数百点以上数があるものには、いきなり参加しても挫折するだけなのでしないほうが良い。なかにはひどいつわり香やヒネ香のものがあり、私も口に含んだことを後悔したことが度々ある。
 −師 (ききざけし)きき酒を専門に行う人、のことではない。私的な団体が与える資格らしい。敢えて言うなら、居酒屋をきき酒会場と勘違いした人がじゅるじゅると大きな音で酒を飲み、得意そうに酒を語る人達が多い団体のようである。私も度々遭遇するが「この酒は薫酒(くんしゅ)です」などと意味不明の用語を大きな声で話している。きき酒を普通に行っている酒関係者でさえも、良識ある人であれば居酒屋にきき酒の作法を持ち込んで大きな音で酒を飲んだりしないのだが。居酒屋でジュルジュルという音を耳にすると、思わず「あなたキキザケシですか?」と質問したくなる今日このごろです。作法は柔軟に使い分けてこそ作法です。是非マナー教育も盛り込んでください。(きき酒師の団体の幹部の方へ)
気曝法 (きばくほう)水の除鉄を行う方法。第1鉄イオンは空気に曝されると第2鉄イオンになって茶褐色の沈殿物となるので、濾過すれば除くことが出来る。簡単には水をシャワーのように空気中に放出し、それを集めて沈殿物を濾過する方法が良い。
協会9号酵母

(きょうかいきゅうごうこうぼ)国税庁の外郭団体である(財)日本醸造協会(醸協)が頒布する酵母のうち9号は特にサラブレッド的存在の酵母として有名である。YK35のKに相当する酵母で、一時は協会9号でなければ全国新酒鑑評会への入賞は難しいとまで言われていた。この酵母は、昭和28年熊本の蔵元である香露で抽出された。特徴は吟醸香が出易く、低温での強い発酵力から吟醸酒、特定名称酒に向いている。

ところで、蔵付き(変形)酵母、×号系自社保有酵母という言葉があるように酵母は何処にでも存在し、しかも酒を造る技術をもったところであればいくらでも培養が可能である。酵母の存在が明らかでなかった時代はそこらに漂う酵母(野生酵母)を利用して酒造りが行われてきた。しかし蔵の新しいスタートの場合はともかく、少なくとも何年か造りが続いた蔵ではたぶん蔵に漂っていたであろう割と均一の酵母(蔵付き酵母)が毎年世代交代を繰り返し、そこの蔵で行われた酒造りのスタイルによって鍛えられてきた(訓練されてきた)ものが発酵を担っていたと想像される。

現在は、毎年醸協から酵母を購入してオリジナル特性のままで協会酵母を使うところもあるが、ベースは協会酵母でも自社で保有、変形させて自分の蔵の造りや酒質に合わせて改良したものを使用する蔵元も多い。協会9号は、実は上手に造れば、派手さの目立つカプロン酸エステルよりもむしろ落ち着いた芳香の酢酸イソアミルの方が主体となり、上品な良い酒になる。そのように造られたお酒は実は私は好きであり、昔からなじんだ懐かしいほっとする吟醸酒です。ただ、そんな特性をもつ9号酵母も自社で変形する過程でカプロン酸が出易い特性の酵母に変化させることも可能であるため、造る人の感性がド派手傾向に向かえば、たとえ”9号系酵母使用”となっていてもオリジナルな特性からは想像もつかないような化粧水だって出来てしまうのである。要は、酵母よりも何よりも造る人の感性次第だと思います。

吟醸  (ぎんじょう)平成2年に定められた「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6」には、精米歩合60%以下で本醸造酒または純米酒と同じ原料で、吟味し、固有の香味を持ったものという規定となっている。固有の香味は下に述べる吟醸香のことを指す。実際の造りの実態は、同法に出てくる、しかも法律用語にしては珍しく曖昧な表現の”吟味”という一言に集約されている。

まず、使用する米は、大抵酒造好適米などの質も、価格も高い米で、3等米以上(クズ米ではない)である。それを丁寧に、温度が上がらないように、割れないように時間を掛けて精米。これを大抵は手作で麹を造り、低温でじっくり時間を掛けて発酵する。製麹(せいきく)作業にしても、仕込みにしても徹夜は当たり前の世界で、2〜3時間置きに状態を見極めての作業である。30日ほどじっくり発酵させたあと、粕歩合が高い状態で絞る。そして、絞りの後も温度管理に気を使って貯蔵し、良心的な蔵は瓶に詰めた後に1本1本別々に火入れする。何から何まで手間の掛かることばかりやっているのが吟醸造りなのです。志の高い蔵であればあるほど、その吟醸酒は蔵人達の魂が入っています。
 −香 (ぎんじょうか)吟醸酒固有の香りの正体のこと。その主成分は以下の通り。
カプロン酸エチル リンゴの香り
酢酸イソアミル バナナの香り
イソアミルアルコール 少量だと青いバナナの香り
ブチルアルコール 少量だと芳香
カプリル酸エチル 少量で洋ナシの香り
このうち主要な成分は、カプロン酸エチル、酢酸イソアミルの2つであり、それ以外は微量である。近年、吟醸酒の普及において、これらの吟醸香の成分の研究が一段と進歩し、人工的な抽出、添加を行うことが一時期流行した。その手法は、発明者3名の頭文字をとってヤコマンと呼ばれる。しかし、こういう便利な手法が開発されると必ずエスカレートするのが世の常。この手法自体は、補助的に行う分には良かったが、バランスが崩れるほど沢山行った酒が出回り、”化粧水”という悪口まで出てきた。現在は、バイオテクノロジーにより香気成分多産型酵母というものが沢山開発されており、それらを単一か、あるいはブレンドして使用する方がむしろ主流となっている。そちらの場合もやり過ぎると問題があるのだが。

いずれにしても、私は香りが突出した酒は好きではない。最初の一杯はおっと思わせるものもあるが、長くは飲み続けられない。さりとて香りがない酒も好きではない。程ほどに、控えめに、しかしちょっぴり色気のある旨い酒が好きなのです。

原酒 (げんしゅ)加水していない酒。アルコール発酵は、酵母自身が自ら出したアルコールによって死滅するため、アルコールに強い酵母(アルコール耐性酵母)を用いても21度程度が限界である。清酒の場合は、そこまで極端には上がらないが、だいたい最高で19度程度となる。18、9度の酒は飲んでみると結構強く、単に酔い易いだけではなく味も非常に辛く感じる。”無濾過生原酒”というのがいち時期非常に流行った。とても濃く、とろりとしていて、今でもファンは多いし製品も多い。

しかし、実は私はアルコール度数が高い原酒は苦手です。特に無濾過と高いアルコール度数の原酒という条件が加わったら大抵一杯で音を上げてしまう。のん兵衛の私でさえそうなのだから、女性が飲めるという方向性で考えるなら、せめて16度程度に押さえた原酒でないと今後は難しいと思う。ただ、アルコールも清酒の調味料の一つのうちなのでそれを落とすのは中々難しいのだが、低アルコール(せいぜい14,5度)でバランスが崩れていない美味しい清酒が出れば大ヒットすると誰もが思っているのだが。

(こうじ)日本酒造りのうちその最も特徴的な部分を一言で言えば、麹に徹底的に拘ることである。麹は、正確には米麹であり、米に麹菌を繁殖させたものをいう。日本酒造りに使用するのは、黄麹である。黒麹は泡盛、白麹は南九州の焼酎に主に使用される。麹は、麹菌の出すアミラーゼにより、デンプンなどの多糖類をブドウ糖の単糖類に分解(鎖を切る)する役割をする。

杜氏さんが一番神経を注ぎこむ作業が麹造り(製麹:せいきく)である。素人の私が杜氏さんを差し置いておざなりの麹造り論をここでブツつもりはないのだが、案外知られていない重要技術について少し解説したい。それは、蒸し米の出来を左右する米の水加減(吸水)である。普通人間が食べるご飯でも水加減を間違えるとせっかくのうまい米が台無しになってしまう。実は清酒造りはもっとそれ以上にシビアな精度が要求される。

蒸し米を食べるのは人ではなく、麹菌である。麹米の出来上がりは、菌糸が表面の一部か全部に米の内部まで届いている食い込み(破精)状態が良く、糖化力も強く、吟醸酒に適している。このような麹米をつくるためには、蒸し米の水分が多過ぎても、少なすぎても良くない。特に吟醸酒に用いる米は高精白にするために時間を掛けてゆっくりと精米を行い、スポンジ状の心白がむき出して、しかも乾燥している。このような状態の米に無制限に水を与えると砂漠の砂のように水をどんどん吸ってしまい、吸水率200%(理想は30%前後)などというとんでもない状態になってしまう。もしこの状態で蒸し米にするとべちゃべちゃの仕上がりで、もしこれに麹をつけると馬鹿破精といって、触っただけでぼろぼろになる力の弱い麹となり、酒造りが出来ない麹となる。そこで、吟醸酒造りに欠かせない技術が限定吸水と呼ばれる方法で、ストップウォチとにらめっこしながら秒単位で吸水をコントロールする方法である。どれくらい吸水するかは、まさに経験と勘であり、良い杜氏さんは米を見て即座に適切な吸水時間を決定する。適切な吸水時間は、米の軟硬、その年の天候、産地、白米の枯らし具合、精米歩合によって皆違うため、米を見て即座に大変難しい判断をしなければならない。吸水の適切なコントロールこそ、麹造りの最初の関門なのである。そしてこれが、酒質を左右する大きな第一歩なのです。
酵素液仕込み (こうそえきじこみ)でんぷん質(穀物)を原料とする酒はどのようなものであれ、糖化とアルコール発酵という2つの過程を経なければならない。清酒の場合の糖化は米に付いた麹菌が出す糖化酵素(グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ)によって行われる。通常の造り方の場合、麹菌がついた米(米麹)はそのまま発酵に使用されるが、酵素液仕込みの場合は、米麹はそのまま使用せず、米麹からいったん糖化酵素を抽出(一晩米麹を浸した水)して、それを酒母に使用する。特徴は、米麹に由来する雑味が押さえられるため、極めてすっきりとした、アミノ酸の少ない酒質になる。ただし、米麹として使用された原料米を捨てることになるため、通常の造り方に比べて7割程の量しか出来ず、大変ぜいたくな造り方となっている。

いそのさわの二代目経営者高木栄三郎は石井康吉杜氏とともにこの手法を研究し、昭和27年、28年連続で全国一位の栄冠を射止めた。それ以弊社ではこの手法を連綿と受け継いで、数々の受賞を果たしている。


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